Δ

23:59

 

今日も寝ては起き寝ては起きを繰り返し、起きている間は最悪の結末ばかりを想像し、気がつくと日付が変わる数十分前だった。まるで義務のように外に出ておくかと思い冴えない部屋着と冴えない顔をコートとマフラーで隠し、部屋の電気と暖房をつけたまま外に出た。昨日は暖かく春一番が吹いていたらしいが今日はそんな気配もなく、最近切ったばかりの短い髪から無防備に出ている耳に、ピアスの冷たさも加わって冷たい風が突き刺さる。

家から一番近いコンビニに入ったら妙に人が多く、空気も淀んでいてなんだか気持ち悪かった。店内を1周もしないうちに店を出た。複数の人が商品を探してうろうろしている様子が水槽の中の魚のようで、決まっているようで決まっていない動き。自分もその中の1人なのに、この時は何故か混ざれる気がしなかった。

少し歩きたい気持ちもあったので、存在は知っていたがここで暮らし始めてから一度も行ったことのないコンビニに向かうことにした。そのコンビニは大きい信号の少ない道路沿いにあって、自宅からそう距離が離れているわけではないのだが、なにせ駅の反対側にあるので行く用事もなかった。大きい道路沿いを黙々と歩く。普段から車の通りが少ないと思っていたが、土曜日なのと23時台ということもあり4車線あるにもかかわらず恐ろしいほど静かだった。冬の冷たい空気でなおのこと静かさが強調されている気もする。私以外誰も歩道にいなかった。歩き続けていると、目的のコンビニを発見する。周りに建物もなく、街灯も少ないので煌々と光るその店は周辺の景色から明らかに浮いていた。店内に入るとやたら白っぽい照明が目に刺さる。このチェーンのコンビニの照明はとにかく白くて眩しい。床も白いので反射光も加わって余計にそう思う。蛍光灯の色温度の問題だろうか。客は誰もおらず、レジにも店員がいなかったので、1件目との差に一瞬戸惑う。しかし店の奥を見ると赤と紺の制服を着た店員が商品を棚に詰めていたので少し安心した。このコンビニは少し前に別のチェーンのコンビニに合併吸収されることが決まり、現在移行中らしく店内の商品は2つのコンビニの商品が置かれている状態である。この店も例に漏れずその状態だったのだが、棚の空白がやけに目立つ。

私はいつもコンビニに来るとぐるぐると店内を歩き回ったのち特に欲しくもないであろうものを手に取り会計を済ませ、店を出た直後に後悔する。下手すると手に取った時点で後悔するとわかっているのにレジに向かう。これはコンビニに限らずだが、常日頃自分の欲求が分からない。これだ、と思ったことさえ本当にそうなのか?と別の自分が邪魔をする。自分の欲求が全て体裁を保つための嘘なんじゃないかと思う。そもそも体裁とは?人間としての体裁?自分が無いと思われるのが怖くて人前では何かに興味が有る振りをしているだけで、本当は(この本当も嘘なのか?)何も思って無い。いつかそれを誰かに見抜かれて諦められるのが怖い。今回もまたそんな思考に陥りながら虚ろな目で店内を2、3周していると、店内の有線から「0時をお伝えします」という音声が流れてくる。いつもこんな風に時刻の区切りを放送していただろうか?聞き馴れない情報に余計現実味が失せていく。店内の照明も相まってまるで作り物のような、全部嘘っぽい景色に思えてくる。棚の値札に付いたポイント5倍の文字。18禁の雑誌の棚が入り口横にあるのはいいのか?値札のついていない商品と付いている商品の違いは?そういえば有線の音量がやけに小さい気がする。別々のコンビニブランドの商品が入り混じった棚。品切れだらけのお菓子棚。このコンビニだけ世界と乖離した場所にあるような気さえしてくる。いまどこにいるのか?

適当な商品を手に取りレジに向かう。棚の前にいた店員はいつの間にかレジ内でまっすぐ立って私を待っていた。この光景すら妙に違和感を感じる。もっと人間味を持って待っててくれ、なんて変な要求を浮かべつつ、去年の祖母の葬式で貰ったクオカードで支払いをする。また無駄なことに使ってしまったな、と思う。

会計を済まし、再び冷たい風が待つ外へ出る。振り返って確認したがあの光はどうにも異質で、暗闇の中にぽつんと在るこのコンビニもそれを含めた光景も、やはりどこか嘘っぽかった。昼間来たらありませんでした、なんてなったら面白いのにな、と思いながら行きとは違う道で帰った。帰りも歩道に私以外誰もいなかった。車の走る音とこれまた漫画みたいにぴゅうぴゅうと風の吹く音だけがあった。ぽつぽつと頬に水が当たる感触がしたので雨が降るのかな、と思いつつ帰宅後Twitterを開いたら、どうやら雨ではなく雪のようだった。今窓を開けて確認しようとしたのだが外が暗すぎてそもそも雨が降っているのかも分からなかった。