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知らないふりをしてることを知ってる

 

 

住んでるところでは時々町内放送で迷い人のお知らせが間延びした声で聴こえてくるのだが、事態としては深刻なのにどうにも緊張感が無い。自分の知らない人が知らないところで行方不明になっている。他者があの人がいなくなったと判断して探しているが、探されている本人は自分が行方不明だと思っていないのかも知れないし、意思を持って離れた可能性もある。放送で流れてくる情報は大体高齢者なので考え過ぎと言われればそこまでなのだが、聴く度に自分の知らない人が自分の知らないところを歩いている姿をぼんやりと想像する。

 


自分の身体から発せられるものがどんどん他人事みたいな感覚になっている。仕事が今とてもしんどい状況にあり、毎日やってもやっても終わらない業務を延々とやっているのだが、それすらもどこか遠くで大変なことになっているんだなあ、と思ってしまう現実感のなさ。空腹感もそうで、食べたいものも特に無いのにそれがやってくると「だからなんなんだよ」という気持ちになっている。普段はまあそうは言っても…と適当に食べて美味しいのかどうかもよくわからないまま終わっていたが、ここ数年は「なんで食べてしまったんだろうな」と後悔する事が増えた。満腹感に襲われると罪悪感すら覚える。昼飯を食べに外に出ても食べるものが決められず休憩時間が終わることが繰り返されるので、食事の度に逡巡が起こること自体が面倒だと思うようになってから昼食を食べるということをやめた。しかし実家暮らしによりどうしても晩飯だけは親と揃って食べなくてはならず、それによって帰宅に向ける足取りが重い。親との食事は苦手だが友人と食事をするのは嫌いじゃなくて、むしろその時はまだ食欲に対して前向きでいられる。酒はよく飲むが、昨晩は家で数口飲んでから「結局飲んだところで何も変わらないし、酔ったところで普段抑えている欲求が顕在化されて最終的に自己嫌悪で終わるのだ」と思ったらもうどうでもよくなってしまい気がついたら変な時間に数時間だけ寝ていて、起きたら本来の起床時間よりも3時間ほど早い中途半端な時間だった。

 


精神的には全然元気だし、余計な事を考えずに済んでいる部分もあるので特に不便は感じていない。この状態もそう長くは続かないだろうとは思うが、食べ物の味は十何年前からもうよくわからなくなっていることを考えると悪化しているとも言える。良くも悪くもどうにかなるとして、その時はその時ということで。数時間後の仕事に備えてあと少し寝る。